「瞬を追う」 加賀谷愼ニ社長の“頭脳“創業以来「18物件連続早期完売」の秘密
東京都心・下町地域でマンション開発を行っているアスコットが“破竹の勢い”だ。
創業以来、全18物件の自社開発物件を1カ月内で早期完売しているからだ。1月下旬に販売したアスコットパーク日本橋水天宮も即日完売。「将棋を変えた男」羽生善治・名人の定石研究『羽生の頭脳』が、かつてベストセラーになったが、会社設立4年、32歳の“常勝経営者”、加賀谷愼ニ社長の「経営の定石」とは。
大机
企画担当者が何度も稟議書を書き直し、社内会議に諮った末、ゴーサインが出る。
物件開発が正式決定されるまでには、こうしたプロセスがあるのが一般的。が、アスコットはその正反対だ。商法で定められている取締役会などを除けば、会議を開くという“企業文化”がないからだ。
もちろん、企画会議もない。
では、どのように優良物件を次々と編み出しているのか。
同社の社内フロアを見渡すと、大机やコーナーテーブルがいくつもあるのに気付く。実はこれこそ、同社の“頭脳”に他ならない。
「担当者にアイデアが浮かぶと、部長だろうと社長だろうと、即座に関係する社内の人間がすべて集められ、結論が出るまで、徹底的に議論する」(加賀谷)。
しかし、設立間もない会社は、創業社長のワンマン経営が多い。全スタッフが議論に平等参加するアスコットの“直接民主主義”経営もオーナーの意思伝達場所になっているだけなのでは。
「まったく違う。資金面以外でわたしが結論を出すことはない。
うちでは、主張する人ばかり。わたしがやり込められることの方が多いくらい(笑い)」(加賀谷)。
常在戦場
町工場から今日のホンダを育てた本田宗一郎の「ワイガヤ」経営は有名だが、アスコットの場合、それにプラス“常在戦場”の厳しさが見える。徹底的な論戦の背景には、議論に負ける
“敗北者”がいるからだ。
「自分の主張が否定されても立ち向かえるガッツがなければ、結論は究められない」(加賀谷)。
利害の衝突ではなく、より高次元の結論を出すための論争。アスコットでこうした弁証法的経営が可能になるのは、経営トップのビジョンが社内に浸透しているためでもあろう。
過去最速
日本住宅建設産業協会がその年度の優良物件を顕彰する「優秀事業表彰」をアスコットが受賞したのは2003年。実に会社設立3年目という「過去に例がない速さ」(日住協)だった(表彰物件は「アスコットパーク人形町カーサビアンカ」)。
「敷地環境・変形敷地等をを考慮し、ターゲットを絞った商品企画の創造性」「安らぎとミステリアスな空間を演出」「地域を限定して事業化し、早期完売を目指す価格設定という事業戦略は多いに参考になる」(選評から)。
このときのコンセプトが、今のアスコット戦略の“核”を形成しているのは言うまでもない。設立以来、18件連続早期完売という壮挙は、「選評」が指摘するように企画力、商品力、そして販売力といった総合的な「経営力」が高速回転しなければ、達成できるものではない。
アスコットの加賀谷愼ニ社長と親しいある有力デベロッパーのオーナーが「早熟の天才」と加賀谷を評価するのもうなずける。しかし、加賀谷は、「わたしはユーザー代表」と自らを評す。
市場の声
加賀谷が常に手放さない分厚いファイルがある。モデルルーム来場者に記入してもらったアンケート用紙の束だ。同社では、モデルルーム来場者一人一人にA4版、20頁超にわたるアンケートを実施している。その回答用紙を一枚一枚、隈なく読み込むことを加賀谷は日課にしているのだ。
「ここにユーザー・ニーズのすべてがある。市場の声を収集し、導かれてきた結果が18件連続早期完売という結果になっているにすぎない。」なぜアスコットの物件が売れ続けているのかと聞くと、加賀谷はこう答えた。
市場ニーズ現実化。平易で明快な経営ビジョンを32歳にして身に着けている点が、“早熟の天才”とされる所以であるのは間違いない。
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